カレーに殺されそうになった話(後編)

戯言

前編からのつづき)
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カレーによる胃の激痛で、トイレから自力で救急車を呼んだあたし。
やっと命拾いしたと思いましたが、まだ安心はできませんでした。

(鍵を開けなきゃ、救急隊員が入ってこれないじゃん……)

あたしの住むマンションはオートロック。つまり自室の鍵のみならず、エントランスの呼び出しに応答し、1Fの自動ドアも部屋から解除しなければなりません。

まずは死にもの狂いで玄関へと進み、ドアの鍵とチェーンを外しました。
そして周囲を見回し、呑気に室内を徘徊していたエディをケージに誘導。その後保険証の入っている財布をバッグに入れ、手近なタオルを取り、脂汗でグチャグチャな額(と前髪)を拭きました。
この間、あたしは激痛と痺れで立ち上がることすらままならなかったので、完全にほふく前進です。戦場で瀕死の兵隊にも負けないくらい、必死の形相だったことでしょう。

数分後、救急隊員が駆けつけインターフォンを鳴らしました。
最悪なことに、室内のインターフォンは、床から約1.2メートルくらいの位置。
「ぬおおおおおおおおおお!」
断末魔の叫び声とともに上体を起こし、モニターを確かめもせず「解錠」ボタンを押し、再び床に倒れました。

+ + + + +

そこから徒歩5分にある病院(かかりつけ)の救急病棟へと運ばれた間のことは、断片的にしか記憶していません。
しかし「何を食べたんですか?」と訊かれたとき、朦朧としながら「カ、カレーです……」と答えた瞬間、その場にいた何名かの救急隊員が全員沈黙したことだけは、ハッキリ覚えています。

「何やってんだ、このオバサンは」
きっと皆、呆れたんでしょーね。マジでこのまま死んだほうがよかったかもしれません。

救急病棟にて、当直医(アラサー男子)に伝えた際も「そ、それは大変でしたね……」と言いつつも、笑いをこらえて口元がヒクヒクしてました。
もうここまで来れば死なないだろうと思ったので「笑いごとじゃありません。助けてください」とあたしは冷静にツッコミました。

吐き止めの筋肉注射と胃の動きを止める薬を飲まされ、処置は完了。
しかし吐き気こそ治まったものの、チリチリと燃えるような胃の痛みは薄まる気配がありません。

「カレーの銘柄は何ですか?」
カーテンを開けて入ってきた別の当直医(アラフォー女子)に訊かれ、あたしは素直に答えました。
「あー、アレはダメです。自殺行為です。ここの病院ではないですが、他にも(救急逝きになった)事例が何件かあります」

殺人レベルの辛さとして有名だということをこのとき初めて知ったあたしは、ジャケ買いした自分の愚かさを恨みました。

20160811
だってコレですよ。
こんなイミシンなパッケージじゃ、買わずにいられないじゃないですか。
(ちなみにヴィレッジヴァンガード渋谷店で購入)

「残念だけど、もうすでに胃が(カレーにやられて)ただれちゃったから、粘膜が再生されるまで、救急でも手の施しようがありません」
歩けるようになったら帰っていいですよ、とアラフォー女医はクールに言い残し、去っていきました。

入れ違いに、再びアラサー男子が入ってきて言いました。

「カレーの後豆乳飲んだって言いましたよね。それが決定的ダメージになったんです」

豆乳や牛乳など「粘膜保護」的なものは粘膜に貼りつく特性があるため、あたしの場合、逆に「刺激物を胃壁にまんべんなく塗り込ませた」状態になってしまったのだそう。

刺激は肉体どこでも感じるものですが、舌のほうが食道や胃袋より鈍感なので、口中が平気でも胃が先にギブアップするらしいです。
つまり、口中でダメなレベルの18禁カレーは飲み込んだら最後、胃袋がやられるに決まってます。
(刺激物に対する耐性には個人差があるので、必ずしも死亡フラグになるとは限りません)

呻き声をあげながらベッドで横になること3時間、疲れ果てて15分くらい寝落ちしたあたしは、目が覚めたら起きられそうな程度に回復しました。
ベッドに腰かけてさらに30分様子を見ていたら、やっと歩けそうなくらい痛みが小さくなりました。
それもそのはず。起きているほうが胃の内容物が引力で下方に溜まるため、刺激物との接触面積が減る=痛みが小さく感じるとのこと。
(だったら最初から寝かせるなよ……)
と思いましたが、運ばれてきた瞬間は起きて体を支えることもできなかったので、寝かせるしかなかったのかもしれません。

20160812

会計を済ませて病院を出たのは午前2時近く。
しかし駅から近いその道は、深夜でも人通りがわりとあり、コンビニの前には酔っぱらった若者の集団が騒いでいました。
いくら深夜の地元とはいえ、せめて多少は身なりを整えようと思った瞬間、愕然としました。

Tシャツ+ジャージ(超部屋着)の前面が薄汚れています。
これはきっと、汗をかいたままほふく前進をしたことで、床の汚れをいい感じに拭き取ってしまったのでしょう。
それだけならまだしも、着替える余裕ナッシングだったあたしは、ノーブラのまま担架に乗せられ運ばれていたのでした。

汚い恰好と乱れた髪の47歳ノーブラ女は、命拾いしたと同時に、いろんなものを失ったような気がします。

皆さん、激辛カレーには気をつけてくださいね。
せめてチャレンジするときは、独りじゃない場で実施しましょう。大変なことになりますから。

あれから1ヵ月以上経ちましたが、いまだにカレー臭が漂ってくると、胃がキリキリと恐怖心をアピールしてきます。
すっかりトラウマになってしまったようです(苦笑)

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